お客様に著作権が帰属しない文献・本のスキャン(複写)作業代行は著作権法で禁じられているため
一切お受けすることができません。またスキャンしたデータを無断配布すると罰せられます。
スキャン代行業者提訴の記者会見を拝見して――
著作者の皆様にお伝えしたいこと
私自身、本が好きで、日ごろから蔵書の保管に苦労していた事から、2006年に本を裁断してスキャンし電子データとして保存する、といういわゆる「自炊」を個人的に始めました。
当時は「自炊」という言葉はほとんど知られておらず、2ちゃんねるのスレッドなどで「自炊」しているという人をたまに見かけても、やはり購入した本を裁断(解体)してしまうことには抵抗感があるようで、裁断して一気にスキャンしてしまうのではなく、裁断はせず1ページ1ページ丁寧にスキャンしている人の方が多いようでした。
そこで私たちは、同じように蔵書の保管に困っている人が大勢いるはずだ、と思い事業化を検討することに致しました。
創業メンバーと、スキャン作業まで代行する案や、店舗型にしてスキャン後の裁断本を活用する案など、さまざまな可能性を検討しましたが、明らかに著作権法に違反することがすぐに分かったり、法的に問題がなくても明らかにモラル上問題が大きいと思われたため、著作権を侵害せず、モラル的にも問題のない「本の裁断&スキャナレンタルサービス」として2006年に事業化致しました。
著作権を遵守し、著作物に対するモラルを尊重した結果、弊社だけでは目的を完結できない、ある意味「不完全な」サービスである裁断サービスが、愛読家のみなさんに受け入れられるのかという不安と、保管場所に困って手放してしまうよりは、大切な蔵書でも思い切って裁断してしまうことで手放さずに済む、という大胆な「逆転の発想」が受け入れられるのか、という不安がありましたが、開業当初から順調にご利用されるお客様が増えて行きました。
そんな中、iPadの発売の発表があった直後の2010年4月ごろに、弊社のサービスに一定の需要があることを知った上で、弊社のサービスを真似て、さらにサービス名まで弊社のscanbooksと酷似した名前で、違法なスキャン代行サービスを始める悪質な業者が一社、現れました。
その違法業者は、サービス開始直後(正確には直前)から ウェブ上でその違法性等について大変大きな話題となっていましたが、著作権関係各所からの注意や取り締まりなどは、約一年以上にも亘って一切なく、事実上スキャン代行サービスは黙認されているかのような期間が長く続きました。
案の定、その間に次々と違法なスキャン代行サービスをする悪質な業者が現れ、先日の記者会見でも紹介されたとおり、その数は100社以上にもなりました。
このような事態に至ったのは、関係各所の初動が非常に遅かったことに原因があったの ではないか、と思っています。
そしてついに、2011年12月20日に違法業者2社が提訴されるという事態にまで至ったわけですが、その記者会見の模様をテレビで拝見し、作家の先生方の作品に対する思いを強く感じました。
特に「裁断された本は、正視に堪えない」というコメントからは、先生方のお気持ちを強烈に感じ、著作権を遵守してきた本の裁断サービスの創設事業者として、身を刺すようなとてもつらく悲しい言葉でした。
そもそも大前提として、著作物の複製行為自体が、法律的にもモラル的にも問題がある行為なのですが、利用者が私的利用を前提に「自分で」複製作業をする場合に限って、限定的に複製が認められているのだ、ということが、著作権法の条文を読むとよくわかります。
従って、利用者を募って「公然と」「大規模に」複製作業を請け負うスキャン代行業者は、明らかに違法であることはもちろん、著作物に対するモラルが非常に低く、法的な面だけでなくモラル的に大きな問題があるのは明らかです。
権利者の方々の利益を侵害することはもちろん、臆面もなくおおっぴらに著作物のコピーを繰り返し、さらにそれを事業として対価を得て行っているという事に、モラルの面として大きな問題を感じています。
私自身、本がとても好きなので、素晴らしい著作者の方が大勢いらっしゃるからこそ、様々な素晴らしい作品を読むことができるのだ、ということを日々身に染みて感じています。
だから、著作者の方の権利を侵すことは一切したくありません。
また、著作物に対するモラル低下を助長するようなことも一切したくありませんし、できません。
そう思うから、弊社は著作権を厳密に遵守することを第一に事業を続けて参りましたが、尊敬する先生方の記者会見での「裁断本は正視できない」という発言は、私たちにとって非常につらい言葉でした。
先生方に知って頂きたいのは、先生方にとって子ども同然である本をバラバラに裁断してしまうことが、正視できないほどつらい事であるのと同様に、身銭を出して本を購入した私たち読者にとっても、非常に抵抗感を感じる作業だということです。
読者である私たちにとって、書店に足を運び、あまたある本の中からあれこれ考えながら購入する本を厳選し(これも楽しみの一部ですが)、身銭を払って手に入れ、膨大な時間を費やしてページを繰って読んだ本たちは、もはや単なるモノではなく人生体験の一部となっており、精神の血となり肉となったとさえ言える存在だからです。
しかし、住宅事情の問題などにより、読んだ本をすべて保管しておく事は、現実問題、多くの愛読家にとって不可能な場合が多くなっています。
泣く泣くブックオフなどの二次流通に売ってしまえば、その本は手元を離れ、二度と読めなくなってしまいます。
かけがえのない、まさに一期一会の大切な本たちを、僅かばかりの金銭と交換して手放してしまった…という罪悪感もあります。
そこで弊社が約6年前に、愛読家の皆さんにご提案したことは、確かに大切な本を裁断してしまうのは考えられないくらい残酷な作業ではあるけれど、個人でスキャンして電子書籍化すれば、何千何万冊の蔵書でも手放す必要がなくなり、長年の悩みを解決できるのでは?ということでした。
その提案は、多くの方々に共感して頂けたと自負しております。
また、紙の本で書棚の奥に保管しておくよりも、電子データなら取り出すのはとても簡単だし、タブレット端末などで持ち歩くことも容易なため、昔の愛読書をまた新鮮な気持ちで読み返せるし、新たな発見をするということもあります。
本を裁断して個人でスキャンするのは、確かに最初は勇気が要りますが実際にやってみると、本をバラバラにしてその命を絶つ...というような単に残酷な作業ではなく、その本を身近な存在の新しい命として生まれ変わらせるような、少しワクワクする作業でもあります。
実際、弊社のサービスをご利用頂いているお客様の多くの方が相当な愛読家であり、「紙の本」の大ファンです。
普通に考えれば、もっとも本を裁断してしまうことに抵抗を感じると思われる人たちです。
それは送られてくる大量の本をみれば分かります。
スキャンしたデータを違法に配布しようというような動機の方々ではありません。
本当にたくさんの「紙の本」を、本当にたくさんのお金を使って買ってこられ、膨大な時間を費やして「紙の本」とともに過ごしてきた方々です。
著作者の先生方に分かって頂きたいのは、単純に「本の裁断=ひどいこと」、「本の裁断=作品を否定すること」ではない、ということです。
「本の裁断」という行為は、必ずしも「紙の本」を否定しているわけではありません。
弊社のサービスをご利用頂いているお客様の中には、先日の記者会見で原告としてお見えになられていた先生方のファンの方がたくさんいらっしゃいます。
身銭を出して、書店で正規に先生方の作品を購読されている方々です。
その愛読家の方々が、限られた生活環境の中で大好きな読書をもっと楽しみたい!という気持ちで、なんとか工夫しているだけの事です。
そのささやかな行為を否定しないで頂きたい、というのが私たちからのお願いでございます。
非難すべきは、
■違法にコピーを繰り返す者です。
■著作物のデータを無断で頒布する違法行為をする者です。
■また、著作物に対する敬意がなくモラルが低い者です。
本の裁断行為自体は、法律的にもモラル的にも、何ら非難されるものではありません。
提案なのですが、「紙の本」を書店に持ち込んだら、その本と引き換えにDRM付きのPDFデータを数百円程度で販売(または手数料として徴収)する、というのはどうでしょうか?
「リアルな書店で引き換える」という制限を付ければ、非常に強力な来店促進になります。
もともと愛読家の方のニーズが高いので、来店時に別の本を購入していく割合は高いと思われます。
私も先生方と同じく、リアルな書店・取次・出版社・著作者などの方々が長い年月の中で形成されてきた現在の「紙の本」の流通の仕組みが破壊されてしまうことは、とても良くないことだと思っています。
長い年月の中で形成されてきた書籍(紙の本)流通の「生態系」には、作品を「淘汰する」というとても重要な機能があり、たとえ読者の方にコストがかかり続けるとしても、明確に保護しなければならないものだと思います。
ネットの世界にも、検索順位やダウンロード数のランキング、レビューの内容と書き込み数などなど、淘汰(フィルタリング)の仕組みはありますが、それは、長い年月の中で培われた書店流通の淘汰の仕組みとは別物であり、それによって淘汰される(厳密には淘汰はされず、順位付けされるだけ)作品の質や特徴は全く異なり、とても代替となるものでありません。
電子書籍は、投資なしで簡単に頒布できるので「インディーズ」とでもいうべき位置づけだとするならば、現在の書籍(紙の本)流通は「メジャー」という位置づけになるかと思います。
ウェブ上のコンテンツには、確かに大量にダウンロードされるコンテンツもありますが、単発で瞬間最大的なものが多く「ダウンロード数=名著」とはならないような気がきます。
だから、数十万ダウンロードあったとしても、それが「メジャー」なのかというとちょっと違うと思うし、やはり書店で数十万冊売れたのとは、重みが全く違ってくると思います。
これは、まさに今、音楽コンテンツの流通で起こっていることでもあります。
電子書籍の「インディーズ」マーケットが盛り上がることは、すそ野が広がりとても良いことだとは思いますが、「メジャー」としての従来の書籍流通が弱くなってしまえば、淘汰の仕組みが破壊され、本当に良い作品が、時代を超えて残りにくくなるし、読者にも届きにくくなると思っています。
是非「リアル書店でのDRM付きPDFデータの引き換えサービス」を実現して頂き、書籍流通の「生態系」の保護を図って頂ければと思います。
平成24年 1月 18日
常務取締役 腰原智之
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